骨折の治りが遅れる5つのNG行動|整形外科医が警告する回復を妨げる意外な原因とは
骨折したらギプスで固定して、あとは時間が経てば自然に治る。そう思っている方は多いのではないでしょうか。しかし実際には、何気ない日常の習慣や行動が骨の再生プロセスを妨げ、治癒を大幅に遅らせてしまうことがあります。最悪の場合、骨が完全にくっつかない偽関節という深刻な状態に陥り、追加の手術が必要になるケースも少なくありません。この記事では、骨折の治りを遅らせてしまう5つのNG行動について詳しく解説していきます。現在骨折治療中の方はもちろん、ご家族が骨折された方、将来のために知識を蓄えておきたい方にも役立つ内容です。正しい知識を身につけて、体が持つ自然治癒力を最大限に発揮させましょう。

骨折が治るメカニズムを知ろう
骨折が治る過程は、家を建てるプロセスによく似ています。更地の整備から始まり、骨組みを作り、最終的に堅牢な建物を完成させるように、骨も3つの段階を踏んで修復されていきます。この仕組みを理解することが回復への第一歩です。
炎症期|修復作業の合図が出る段階
骨折直後から2〜3週間は炎症期と呼ばれる段階です。骨折した部位では出血が起こり、血液の塊である血腫が形成されます。この血腫は工事現場における立ち入り禁止のバリケードのようなもので、同時に修復作業を開始する合図の役割も担っています。炎症反応によって免疫細胞や修復に必要な細胞が続々と集まり、壊れた組織の破片を片付け始めるのです。骨折した部分が腫れて熱を持つのは、この炎症反応が活発に起きている証拠であり、決して悪いことではありません。むしろ治癒に向けた体の正常な反応といえます。この初期段階がスムーズに進むかどうかが、その後の回復速度を大きく左右することになります。
修復期|仮骨が形成される段階
炎症が落ち着くと、修復期(仮骨形成期)へと移行します。この段階では、まず繊維軟骨という比較的柔らかい素材でできた仮骨が作られます。これは家の建設でいえば、柱や梁といった木材のフレームを組み立てる工程に相当します。骨芽細胞と呼ばれる骨を作る専門の細胞が活性化し、数週間をかけてこの柔らかい骨組みをより頑丈な仮骨へと置き換えていきます。コンクリートで基礎を固めるイメージです。骨折部分にできる硬いコブのようなものが、まさにこの仮骨にあたります。ただしこの段階の骨はまだ未熟で強度が十分ではないため、無理な負荷をかけると再び折れてしまう危険性があります。
リモデリング期|成熟した骨に作り替わる段階
最終段階がリモデリング期です。仮骨はまだ未熟な状態であるため、この期間をかけて本来の強くしなやかな成熟した層板骨へと作り替えられていきます。家の建設でいえば、内装や外装を仕上げて堅牢な家を完成させる段階に相当します。この過程は数ヶ月から、場合によっては数年という長い期間を要することもあります。骨は単にくっつくだけでなく、日常生活で受ける負荷に耐えられる強度を取り戻す必要があるためです。リモデリング期が完了して初めて、骨折前と同等の機能を回復したといえます。焦って負荷をかけすぎると、せっかく形成された骨が変形したり弱くなったりする恐れがあります。

骨折中にやってはいけないこと5選
骨の治癒プロセスを理解したところで、いよいよ本題です。以下に挙げる5つの行動は、骨の再生を妨げ、治癒期間を大幅に延ばしてしまう危険性があります。心当たりがある方は今すぐ見直しましょう。
血糖コントロールの放置(糖尿病の方は特に注意)
糖尿病をお持ちの方は、骨折の治癒が遅くなりやすいため特に注意が必要です。血糖値のコントロールが不十分な状態では、炎症期に必要な細胞を呼び集めるシグナルが弱まってしまいます。さらに、骨折部位に栄養を届けるための新しい血管の形成が阻害されたり、骨の土台となるコラーゲンが糖化して脆くなったりする恐れもあります。研究データによると、ヘモグロビンA1cが7.5以上の場合、骨折の治癒成績が明らかに悪化することが報告されています。骨折してしまったら、いつも以上に血糖管理を徹底し、必要に応じて内科の主治医とも密に連携を取るようにしてください。
痛み止め(NSAIDs)の自己判断による多用
骨折の痛みを和らげるために市販の痛み止めに手を伸ばしたくなる気持ちはわかります。しかし、ロキソニンやイブプロフェンに代表されるNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の自己判断による多用には注意が必要です。これらの薬は炎症を抑えることで痛みを軽減しますが、骨折治癒の第一段階である炎症期は修復チームを集めるために欠かせないプロセスでもあります。炎症反応を過度に抑え込んでしまうと、骨の再生に必要な細胞が十分に集まれなくなる可能性があるのです。痛みが強い場合は、自己判断で市販薬を飲み続けるのではなく、必ず医師に相談してください。アセトアミノフェンなど、骨の治癒に影響が少ない薬を処方してもらえる場合があります。
骨の材料となる栄養素の不足
骨折中は動けないからと、食事を軽く済ませていませんか。それは回復を遅らせる大きな間違いです。骨の修復には大量のエネルギーと材料が必要であり、材料がなければ家は建てられないのと同じ理屈です。特に骨の土台となるコラーゲンを作るタンパク質、骨の主成分であるカルシウム、カルシウムの吸収を助けるビタミンDは欠かせません。お肉やお魚、大豆製品からタンパク質を、乳製品や小魚からカルシウムを、キノコ類や魚からビタミンDを積極的に摂取してください。さらにビタミンCやKも骨の形成に関与するため、野菜や果物もバランスよく食べることが大切です。骨折中こそ守りではなく攻めの食事を心がけましょう。
過度な飲酒
少しくらいなら大丈夫だろうと思ってお酒を飲んでいませんか。実はアルコールも骨の治癒を著しく妨げる要因の一つです。アルコールは骨を作る職人である骨芽細胞に対して直接的な毒として作用し、その増殖や機能を阻害してしまいます。さらに厄介なことに、本来骨を作るべき細胞を脂肪細胞へと変化させてしまうことがわかっています。これは治療現場から職人を追い出し、代わりに邪魔者を入れるようなものです。また、アルコールの利尿作用によってカルシウムが過剰に排出されることも問題です。骨がしっかりくっつくまでは、お酒を休む禁酒期間と考えて徹底しましょう。
喫煙
タバコが肺に悪いことは広く知られていますが、骨折の治癒にも深刻な悪影響を及ぼすことはあまり認識されていません。タバコに含まれるニコチンには強力な血管収縮作用があり、骨折部位への血流が減少します。骨を再生するためには大量の酸素と栄養が必要ですが、喫煙によって血管が収縮すると、治療現場が兵糧攻めの状態になってしまうのです。研究では、喫煙者は偽関節(骨がくっつかない状態)になるリスクが約2倍に増加し、治癒期間が約70%も延長したという報告もあります。これは自分で変えられる最大のリスク要因です。骨折をしてしまったら、それは体からの禁煙メッセージだと受け止め、禁煙に取り組んでみてください。
複数のリスク要因が重なると危険度は掛け算に
ここで特に注意していただきたいのは、これらのリスク要因は複合すると危険度が足し算ではなく掛け算のように増大するという点です。たとえば糖尿病の患者さんがタバコを吸いながら骨折した場合、それぞれの悪影響が重なり合い、治癒が困難になるリスクは指数関数的に高まります。一つ一つは小さなことに思えても、複数が重なると致命的になりかねません。心当たりがある項目が複数ある方は、すべてを一度に改善しようとするのではなく、まずは取り組みやすいものから一つずつ改善していくことをおすすめします。
骨折を早く治すために心がけたいこと
やってはいけないことを避けるだけでなく、積極的に回復を促す行動も取り入れましょう。体が持つ驚くべき自然治癒力を最大限に引き出すためのポイントを3つ紹介します。日常生活の中で実践できるものばかりです。
バランスの取れた食事を3食しっかり摂る
骨の修復には膨大なエネルギーと材料が必要です。カルシウムやビタミンDはもちろん、タンパク質、ビタミンC、ビタミンKなど複数の栄養素がチームとなって骨の再生を支えています。これらをサプリメントだけで補おうとするのではなく、できるだけ食事から摂取することを心がけてください。朝昼晩の3食をしっかり食べることで、必要な栄養素を継続的に供給できます。魚や肉、卵などのタンパク源、乳製品や小魚などのカルシウム源、キノコ類や青魚などのビタミンD源、そして野菜や果物からのビタミン類をバランスよく組み合わせた食事が理想的です。
医師の指示を守り適切な固定を維持する
骨折治療の基本は、折れた骨を正しい位置に戻し、動かないようにしっかり固定することです。ギプスや装具が邪魔に感じたり、痛みが引いてきたりすると自己判断で外したくなるかもしれませんが、それは回復を大きく妨げる行為です。仮骨はまだ柔らかく、固定を外すとずれたり再び折れたりするリスクが高まります。まだ乾いていないセメントの上に重いものを乗せると形が崩れてしまうのと同じです。定期的に受診して骨の状態を確認してもらい、固定を外す時期は必ず医師の判断に従ってください。焦りは禁物です。
十分な睡眠と適度な活動で血流を促進する
骨の修復には睡眠中に分泌される成長ホルモンが深く関わっています。質の良い睡眠を十分にとることで、体の修復機能が活発に働きます。また、骨折中だからといって寝たきりになるのも逆効果です。骨折部位に直接負荷をかけない範囲で体を動かすと全身の血行が促進され、骨折部位への酸素や栄養の供給がスムーズになります。座りっぱなしや寝てばかりの生活は筋力低下にもつながるため、医師の許可が出たら軽い散歩やストレッチなど、無理のない範囲で活動量を確保しましょう。入浴も血行促進に効果的ですが、炎症が強い時期は医師に確認してから行ってください。
まとめ
骨折の治療は医師だけに任せるものではなく、患者さん自身の生活習慣が回復の鍵を握っています。今回紹介した5つのNG行動、すなわち血糖コントロールの放置、痛み止めの多用、栄養不足、過度な飲酒、喫煙を避けることで、体が本来持っている骨の再生能力を最大限に発揮させることができます。骨折の治療期間は長く辛いものに感じるかもしれませんが、正しい知識を持ち、自分自身の治癒力をサポートする生活を送ることが、後遺症のない健やかな回復への一番の近道です。焦らず、しかし着実に、一日一日を大切に過ごしていきましょう。
